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雪と菫青石

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白い花

この手に可憐な花がある。
やっと手に入れた、小さく白く咲く花が。

「恋次…恋次。恋次!おい、返事をせぬか変眉副隊長!」
あまり広くはない店を貸し切りにして開催されているのは、副隊長連絡会議と名のついた副隊長たちの飲み会である。
「でけえ声出すな、酔っぱらい」

「酔ってなどおらぬぞー」
ふふ、と笑って、ルキアはまだ手をつけていないおでんの小鉢を恋次に見せた。
「銀杏好きだろう?食べるか?」
「おう」
恋次の手がひょいとのびて、銀杏の串を摘んでいった。
「すいません、水頼んます」
女将にそう頼んで、恋次はルキアの杯を取り上げた。
「飲み過ぎだ。そんくらいにしとけ」
「だから酔ってなどおらぬわ、奇天烈入れ墨眉毛め」
そう言って、ルキアはこてんと恋次の腕に頭を凭れさせた。
「ただこの店がちょっと暑すぎるのだ。うん、暑い…」
「ああもうほら水飲めよ!お前そろそろ門限だろ」
なにがおかしいのか、くすくすと笑い続けるルキアに、恋次は苦労して水を飲ませていた。

「あの二人、とうとうつきあっちゃったのかしらね」
強い酒を水のように流し込みながら、乱菊は言った。
「そうですかねえ」
対照的に、ちびちびと酒を舐めながら答えるのはイヅルだ。
「彼らがイチャイチャしてるのはいつものことですからねえ」
イヅルの言う彼ら-------恋次とルキアは、気づけば二人で同じ皿を突き合っていたりする。
子供の頃からの癖で、互いの好物が出たら分けてやりたくなるものらしい。
あの『朽木家の』令嬢が、十三番隊の下級隊士たちの飲み会などに誘われるはずもなく。
また海燕亡き後は、きさくにそういう席に誘ってくれる友もなく。
従って、ルキアに酒を飲ませるとどうなるか…について、副隊長たちが初めて知ったのは、こうやって連絡会議の席で一緒になってからのことである。
酒癖はまあ、悪くないのかもしれないが。
基本的には大人しく飲んでくれているのだが、酔いが回るにつれ、じんわりと恋次に絡む頻度が増して行き、恋次も恋次でそんな彼女の世話を甲斐甲斐しく焼いてやったりして、なんていうかこう------
目の毒。
これが恋次を除く副隊長たちの共通意見である。
結局ルキアが潰れたところで一次会はお開きになり、呑み足りない酒豪どもは次の店を探して繁華街に繰り出して行った。
「なんだよ、恋次の野郎また嬢ちゃん持ち帰りかよ」
やや怪しい呂律で愚痴るのは修兵。
「あー俺もなんかいいことねえかなー。奇麗なお姉ちゃん持ち帰りとかー!」
「自宅まで持ち帰れると思うかい?」
と涼しい顔で笑うのは弓親。
やちるに一般的な副隊長の事務処理を任せるのは無理なので、こういう連絡会議は五席の彼が代行している。
「賭けるか?」
懐手で歩いていた一角が、修兵に聞いた。ちなみに一角は酒の席になってからのみの参加である。
「無理だな」
「無理ね」
「無理じゃろう」
修兵、乱菊、射場の声がほぼ同時に重なった。
「おやすみのちゅーくらいは、できるといいなー。かーわいそーに」
あまり同情した風でもなく、へらへらと修兵は笑った。

他の副隊長の目のあるところでは「起きろ馬鹿」だの「寝たら捨てて行くぞ」だのと、しきりにルキアを罵っていた恋次だが、角を曲がって人の悪い先輩たちがいなくなったことを確認すると表情を改めた。
「お前、むこうの方でも飲みに誘われんのかよ」
力の抜けたルキアを軽々と抱き上げて、恋次は話しかけた。
喋っていないと眠りに落ちてしまいそうな風情のルキアである。
「むこうって?」
「十三番隊」
「あるよ」
とろんとした口調でルキアは答えた。
「じゃあ行くなよ」
「なんで?」
なんでって、この野郎。と恋次は歯ぎしりした。
こんな無防備な姿を、他の野郎どもに見せたくねえんだよ!
とは言えず、恋次は他の理由をあげつらった。
「いいか、酔っぱらったお前は他人様の迷惑だからだ。
 お前酔っぱらうと笑い上戸になるし、絡むし、しつこいし、すぐ潰れるし…」
恋次の言葉は、半ばで途切れた。
彼の腕の中に抱き上げられているルキアが、その白い腕を差し伸べて彼の頬に触れたのだ。
頬から顎へと指は滑り、恋次の赤茶色の瞳を見つめていたルキアの瞼がそっと伏せられた。
眠ったのではなく、誘うようにわずかに顎を上げて。
(それにキス魔になるし)
という言葉を飲み込んで、恋次は立ち止まった。
ルキアの望みを叶えるべく、恋次はその唇に己のそれを寄せていった。
どんな美酒よりも陶然とする、柔らかいあの感触まであとほんの------
「そこまでだ」
冷たい空気と冷徹な声が、二人を凍り付かせた。
「門限はとうにすぎている。なにをしておるか」
「にっ、兄様っ!!」
一瞬にして酔いが醒めたルキアが、恋次の腕から飛び降りた。
「送り狼の送迎など要らぬ。帰れ」
殺気を滲ませて恋次に詰め寄る白哉の前に、ルキアが割り込んだ。
「申し訳ございません、兄様!恋次は、酔った私を介抱してくれていただけなのです。
 なあ、そうであろう、恋次?!」
振り返った拍子に酔いが回ってふらついたルキアの肩を、恋次の骨張ったがっしりとした手が支えた。
「言い訳は、しねえ」
ルキアの肩を抱き寄せて、恋次は白哉を睨みつけた。
「どういう意味だ」
「どうもこうも、こういう意味です。俺とルキアはつきあ----」
「『六杖光牢』」
詠唱破棄の縛道で、恋次の身体の自由を奪い去り、一瞬にして白哉は恋次の手からルキアを奪い返した。
「酔漢の戯れ言につきあう気はない」
光の束に身を拘束され、道に無様に転がる恋次を、白哉は冷ややかに見下ろした。
ルキアは白哉の一気に膨れ上がった霊圧に圧倒され、息もできない。
ひゅうひゅうと苦しげな、笛のような音がわずかに喉から漏れるのみである。
それに気づいた白哉は、漏れていた霊圧を身の内に押さえ込んだ。
同時に、恋次を縛っていた光束が崩れ、霧散していく。
「お前たちには、まだ早い」
そう言い放つと、ルキアを小脇に抱えた白哉は瞬歩でその場を去って行った。


それから一月ほどしてのことであった。
朽木家の茶会に、恋次は招かれた。
警護の要員で、ではなく末席ながら正式な客人としての扱いであった。
茶の湯の作法も知らなければ、そのような場に着る服も持たぬ恋次である。
白哉に命を受けたとき------誘いではなく、それは断る事を許されない類いの命令であった-----恋次は真っ青になった。
「作法はルキアから習え」
白哉は平然とそう告げた。
恋次はまた青くなった。白哉の意図がまったく分からないのが不安をいっそう煽った。

最悪な、茶会であった。
もともと物覚えの良い方である恋次は、作法についてはなんとかなっていた。ルキアの特訓の成果である。
しかし借り物の着物を身につけ、明らかに身分の違う恋次を相手にする客人は誰もいなかった。
恋次は他の客人たちからは、完全にいない者として扱われた。
もっともそれは彼にとって、どうでもいいことである。
腹立たしかったのは、貴族たちの間でかわされていたその後の会話であった。
恋次程度の羽虫に聞かれたところで、どうということもないと思っているのであろう。
茶会に招かれた貴族たちの会話は、侮蔑と詮索と根拠のない下世話な妄想の混じり合った、ひどく醜いものであった。

『流魂街の野良猫も、朽木家の水で磨かれればあそこまでになるものか』
『ご当主も趣味が悪い』
『あの人は前から、こう…』
『しかし側室にもせず妹扱いとは-------』
『側室にもできぬのだろうよ、いろいろと憚る向きが------』
『あの猫は問題を引き起こしすぎたからな。そら、この前の旅禍騒ぎも…』

いずれもルキアを嘲笑い、泥土に引きずり落とすような物言いであった。
彼らが消えるまでの間、恋次は拳を握りしめてひたすら耐えていた。


「どうだった」
茶会の後、客間に通された恋次の前に白哉が姿を現した。
「…どう、と言われましても…」
恋次は答えに困って下を向いた。
「あれが現実だ」
静かな白哉の言葉が恋次の耳に沁み入ってきた。
白哉は淡々と続けた。
「ルキアは一生、あのように見られながら生きていかねばならぬ」
それは私の罪でもある…という白哉の言葉には、悔恨だけとは思えない重いなにかが込められていた。
「野に咲く花を、庭に移した。その時はよかれと思ってしたことではあるが、今となっては…」
白哉が言葉を切ると、沈黙が二人の間に流れた。
その時にはよかれと----------恋次の脳裏にはまざまざとあの日の情景が甦ってきた。
ルキアの為だと信じて、朽木家への養子の話を後押しした、あの苦い思い出。
過去に立ち返っていた恋次の思考を、白哉の言葉がまた現在へ引き戻した。
「ルキアは、いずれ婿を取らねばならぬ。あれには分家を一つ与えるつもりだ。
 婿には、隊長格かそれと同等の実力のある男をと考えている。
 そのくらいでなくば、親族たちの手前、分家を立てることが許されぬであろう。
 またその男は、朽木家一族のみならず、貴族の世界にいるものたちとも対等に渡り合う力がなくてはならぬ。
 ルキアを守る為に。」
白哉の霊圧が上がってきている。ぴりぴりしたものを首筋に感じて、恋次の額に汗の玉が浮かんできた。
「私に反対されたら流魂街にでも逃げていけばいいと思っていたのであろう。
 若く、自由に身体の動くうちはそれで良いかもしれぬ。
 だが、どちらかが病に倒れたら-------特に、お前が先に逝ってしまったのなら。
 誰一人頼るもののない世界に、またルキアを放り出すつもりか」
恋次は言葉もなく、うつむいていた。
白哉の言葉の切っ先の一つ一つが、恋次の心に突き刺さる。
浅薄。己を表すにはまさにその一言につきる。
恋次はただ恥じ入るばかりであった。
「ルキアの心を手に入れたからと言って、浮かれて見せびらかすような真似をする底の浅い男に、隊長試験の推薦状を与えるわけにはいかぬな」
思いもかけぬ言葉に、弾かれたように恋次は顔をあげた。
「隊長、それって…」
「言っておくが、推薦するとは言っておらぬ。だが、それに向けて精進するのは勝手だ」
かっと全身が熱くなるのを恋次は自覚した。
試されている、と彼は思った。
上等だ。
超えるべき山は高ければ高いほど、やりがいがあるというものだ。
恋次は唇を噛み締め、白哉を見据えた。
「やってやりますよ」
噛み付くように恋次は言った。
「隊長だろうがなんだろうが、ルキアを手に入れる為なら------なってみせます」

恋次が去った後、白哉はくっと笑みを漏らした。
「推薦するとは言っておらぬが---------妨害しないとも言っておらぬ」
朽木白哉。
この強大にして峻烈なそそり立つ山を恋次が乗り越えることができるのは、まだ先のことである。
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テーマ:二次創作小説 - ジャンル:アニメ・コミック

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