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雪と菫青石

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再会

恋次の病室は、今日も見舞客で賑わっていた。
「それで、あの時この人が呑み比べに持ち込んで」
「馬鹿を言え、言い出したのはお主じゃろう」
病室に酒を持ち込んで、手酌で呑んでるのは一角。
彼に注いでもらった茶碗酒を、豪快に呷っているのは射場である。
「お前も呑めよ」
「いや俺、一応怪我人なんすけど」
一角に茶碗の酒を押し付けられて、恋次は仕方なくそれを飲み干した。久々の酒が、胃の腑に染み渡る。
「……そろそろ失礼するよ」
突然弓親が言った。
「ああ?まだ早えだろ」
と不機嫌そうに友人の方を振り向いた一角だが、なぜか「…ああ」と押し黙った。
「じゃあワシらは帰るけんのう」
「また来るぜ」
「お大事にね」
いつも来たら最後数時間は粘る先輩たちが、今日に限ってあっさり去って行く。
あっけに取られる恋次の前に、弓親がドアの前に隠れていたらしき人物を押し出してきた。
「頑張りなよ?」
ウインク一つを残して、弓親は笑って去って行った。
病室には恋次と-----------ルキアが残された。

気まずい。
ベッドの上で胡座をかいた恋次は沈黙に耐えかねていた。
「そんなとこに突っ立ってねえで、こっちこいよ」
ルキアを椅子に座らせるつもりで彼女の方に手を差し出すと、ルキアはびくっと震えた。
「……座れよ」
「いや…大丈夫だ」
あれ?ひょっとして俺、怖がられてる?ひょっとしてこの前のアレが悪かった?
恋次は密かに焦った。
前回ルキアが見舞いに来てくれた時の恋次はまだ傷が癒えておらず、ベッドの上に身を起こす事もかなわなかった。
そんな彼を見て、ルキアは泣いてしまったのだ。
青紫の瞳から、露のような涙が次から次へと溢れてきて、声を殺してルキアは咽び泣いていた。
抱きしめずには、いられなかった。
動くとまだ痛えんだよ。来いよ-----もっと近くに。
そう頼んで、彼に身をすり寄せて来たルキアを、なんとか自由になる左手でぎゅっと抱き寄せた。
本当は口づけたかったのだが、泣きじゃくるルキアの弱みに付け込むような気がして、それはかなわなかった。
「…大丈夫、なのか」
「あ?」
「そんなもの、飲んだりして」
一角の置いていった酒瓶をルキアは見ている。恋次は慌てて言い訳をした。
「い、いや!これ飲んだのほとんどあの人たちだから!俺は一口だけだって!」
「そうか」
また沈黙が落ちた。ルキアが何かを言い出しかねているのを察して、恋次は水を向けてみた。
「なんだ、俺に話があったんじゃないのか?」
「…すまない」
ルキアは床に視線を落としていた。
「お前に迷惑をかけた」
「ああ?その話なら、済んだことだろ?」
あの双極の丘から逃げる時に、そんな話をした。怪訝な顔をする恋次に
「そうじゃない」
とルキアは答えた。震える手をぎゅっと握りしめている。
「これからのことだ。お前は副隊長の座にまで辿り着いたというのに、私の…私のせいで処分されるかもしれぬ」
副隊長。確かに流魂街出身の野良犬しにては、破格の出世である。
ルキアは震える唇で小さく呟いた。
「すまない」
そしてルキアは深々と頭を下げた。
恋次の血がかっと逆流した。
「そんなこと、お前が考えることじゃねえよ!」
俺が副隊長になったのは、お前にもう一度胸を張って会う為で。
お前の命に比べたら、地位なんてなんの意味もない。
そんな思いが瞬時に吹き出して大声となったのであるが、ルキアはそれに怯えたかのように身を竦めた。
「…そう、だな。私が…どうこう言えることではなかった」
ルキアは恋次から目を逸らしたまま踵を返した。
「邪魔をした」
そしてルキアは病室から走り出して行った。

おかしい。
なにかが決定的に伝わらなかった。
ベッドの上であっけにとられていた恋次は
「そうじゃねえ」
と呟くと、ルキアを追って裸足で駆け出した。
ルキアには、中庭で追いついた。
「待てよ、ルキア」
菩提樹の木の下に、追いつめる形になった。木を背にするルキアは、恋次と目をあわせられないでいる。
風に木の葉が擦れるざあっという音がした。
「…こっち見ろよ」
うつむくルキアの顔の両脇、木の幹に恋次は手をついた。逃がさない、と思った。
今逃がしたら、きっとあの時と同じ事になる。
「大きな声出して悪かったよ」
「…そんなこと…ない」
ルキアからは自分の前に立つ恋次が逆光に見える。
病衣からのぞく包帯に巻かれた胸。
ずきんとルキアの胸も疼いた。
「そうじゃねえんだ」
恋次の声が苦しそうで、思わずルキアは視線を上げた。
ルキアの弱さも何もかも見透かすような鋭い視線が、彼女に向けられていた。
「副隊長なんざ、どうでもいい。明日降格処分が下されたってかまわねえ」
吐き捨てるような恋次の言葉に、ルキアの瞳が見開かれた。
「副隊長になりたかったのは、それは…俺が、そうじゃなきゃお前に会えないって勝手に決めてたからだ」
恋次の言葉の意図がわからず、ルキアはかけるべき言葉を見つけられずにいた。
「身分が、違いすぎる。俺があの頃の俺のままで会いに行ったって、会わせてもらえるはずがねえって」
一息つくと、恋次は言葉を続けた。
「本当はずっと会いたかった」
恋次はそう言うと、ルキアに身を寄せてきた。
抱きしめるでもなく。ただ少し屈んで、ルキアの髪に鼻先をよせる。
「お前が死なないでよかった」
懐かしい匂いに、ルキアの胸は塞がれた。くらりと目眩までしてくるようだ。
「なぜだ」
恋次の熱を、すごく近くに感じる。
「なぜ、私などに…そこまでして」
最後にこんなに身を寄せ合ったのはいつ以来だろう、とルキアは思った。
あの頃の二人はただの子供で、恋次の腕はもっと細かった。
今自分のすぐ近くに接している逞しい腕を見ると、ルキアは泣きたくなった。
こうなるまでに、この男はどれほどの研鑽を積んだのだろうと。
双極の丘から逃げる時も、藍染の刃にさらされた時も、この腕は自分を守ってくれた。
この腕が--------数日前の夜、自分を抱きしめた。
それだけで自分がどんなに安堵したか。その腕がどんなに暖かだったか。
その時の感触を生々しく思い出して、ルキアは身震いした。

だめだ。
それは許されない。

ルキアの震える気配に気づいて、恋次は顔を上げた。
なぜ私などに。そうルキアは言っていた。
恋次の胸の中に、押さえていた熱情が荒れ狂った。
伝わるだろうか。伝える事が許されるのだろうか。
この思いを。
「ルキア」
彼女の両肩に手を掛けて、恋次は呼びかけた。
「俺は-----------お前のことが」
「…だめだ」
ルキアは彼の胸を押し返して、拒絶の言葉を口にした。
青紫の瞳が絶望に暗く濡れている。
「だめだ、許されないんだ、私は---------私、は…」
その声は過去の悔恨をこめて遠くから響いた。

「わたしはひとごろしだから」

風が強くなった。狂ったように舞う枝葉の立てる音は、ルキアの中に雨音の記憶を呼び覚ました。

雨の中で、ルキアを抱きしめているのは海燕であった。
  結局お前はその男を忘れられなかったんだな、朽木。
血の泡を唇に浮かべながら、海燕は笑っていた。
  そしてお前は、俺を忘れるのか。

違う、違うのです海燕どの。
ルキアは刀の柄を伝って手に流れ落ちる彼の血を感じながら喘いだ。
私はあの日から一度だって、そんなことが許されるなんて思ったことは。

不意に彼女の心が遠くに行ってしまったのを知って、恋次は焦燥感に駆られてルキアを抱きしめた。
「何を抱え込んでんだよ、てめえは」
ルキアの髪に顔を埋めて、恋次は祈った。帰ってこいと。この言葉が届けと。
「言ったろう?俺にも寄越せ。俺に半分預けろって」
身を硬くし、心を閉じるルキアの前に、恋次は膝をついた。
「頼む、帰ってきてくれ」
お前があの男をまだ忘れられないというなら。
この思いを受け止めるほど、お前の傷が癒えていないのなら。
俺の気持ちなど、今はまだわからなくていい。
頼むからルキア------------戻ってこい。恋次はそれだけを一心に願った。
「俺ともう一度、家族になってくれ」
ルキアの体がびくりと震えた。全身の強ばりが解け、心が現実に立ち返ってくる。
ああ、恋次が泣いている-----と彼女は思った。
自分でもわからない何かの衝動に突き動かされて、ルキアは恋次の頭をかき抱いた。
触れる肌から伝わる熱が、しみ込んでくる。
ああ自分はこんなにもこの男に会いたかったのだ、とルキアは思い出した。
朽木家で過ごした四十余年は長かった。
あの頃に戻れるならばと------恋次と、もう一度家族に戻れるならと。
ルキアがそのことを考えない夜はなかった。
そうか。最後にたった一人残った家族だったから、お前は来てくれたのだな。
そう思うと、不思議と得心がいった。
ルキアの中に目覚めつつあった感情は、かちりと封印された。

恋次が、今ここで泣いている。子供のように、心細げに。
泣かないで、とルキアは祈った。私にできることならなんでもするから。
「…どこにも行かないよ……」
ルキアの小さな囁きを耳にし、恋次が顔を上げた。
「好きだよ、恋次。ずっと一緒にいよう」
彼女の言う『好き』と自分の思うそれとでは、大きな隔たりがあるのであろうとわかってしまい、恋次は悲しい笑みを浮かべた。
「ああ。一緒にいよう。家族、だからな」
恋次からの抱擁は軽く、優しく触れるだけのものにした。彼女が怯えてしまわないように。
今はまだこれでいい、と恋次は思った。
やっと会えた、それだけでいい--------と。

それから一週間。恋次が職務に復帰してからしばらくしてのことである。
隊長執務室で雑務をこなしている恋次のもとに、ルキアが顔を出した。
「忙しそうだな」
「まあな。隊長副隊長そろって欠勤しちまったからな。仕事が溜まりまくって、まだ片付きやしねえ」
山と積まれた書類の前で、恋次は嘆息した。
「お気の毒に」
そう言ってルキアは、差し入れの鯛焼きを彼の前に置いた。
「そういえばお前、傷のほうはもう良いのか?」
「おう、もう傷跡も残ってねえよ」
恋次は襟をわざと広げて、にやりと笑った。
「見るか?」
『莫迦もの、そんなものを見せるな!』と赤面するルキアの反応を期待しての行為である。
「ああ」
彼の予想に反して、ルキアは平然と近寄ってきた。
執務机の前の椅子に座る彼ににじりよると、ちょこんとその膝の上に座る。
あまりの事態に、恋次は言葉を失った。
襟を大胆に広げ、胸元を覗き込み
「本当だ。もう傷一つない…よかったな、四番隊に感謝せねばな」
などと言っている。それのみならず
「ところでこの入れ墨はどうなっておるのだ。見せろ」
などと言い出す始末である。耳まで赤くなったのは恋次の方であった。
「……!!!」
執務室の近くで、覚えのある霊圧が膨れ上がったのを察知し、恋次の全身が緊張した。
あ、兄様だ…と呟いて、ルキアはするりと彼の膝から滑り降りた。
帰室した白哉と入れ違いに、ルキアは去って行った。
家族に戻れたのはよかったけれど。
再会してやっとスタートラインに立てたと思ったが、実はとんでもない勘違いをしていたのではないか。
あいつは小指の先ほども俺の事を男だと思ってない。
これはあんまりじゃないのか。
白哉がいなければ、恋次は頭を抱えて机の上で煩悶したい気分であった。
「恋次」
低く押し殺した白哉の声がした。
その中に隠された怒りの気配に、自分がまずい事態に追い込まれたことを知る。
「今の状況、私によくわかるように説明してもらおうか」




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実はラストの「膝に乗っかっていちゃいちゃ」を書きたい一心で書いたものです。
おっかしいなー前半がアレなのにオチがシスコン兄様だよ?
何かが…違う…
ちょっと加筆修正しました。
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テーマ:二次創作小説 - ジャンル:アニメ・コミック

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