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雪と菫青石

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温かな手

海燕の墓前にやっと行けたその日の夜、ルキアは熱を出した。
あの日以来初めて彼に、そして彼の家族に詫びる事ができ、肩の荷が降ろせて安堵したからなのかもしれない。
自室の布団に横になり、ルキアは目を閉じた。
寒気がとまらないので、布団を体に引き寄せて小さく丸まる。
こんな時にも思い出すのは恋次の顔で。
彼の手の温もりを思い出しながら、ルキアはいつしか眠りに落ちていた。


彼女の体調を気遣ってか渋い顔をする白哉を押し切り、ルキアは十三番隊に出仕した。
あの事件以来、初めての勤務である。
朝礼が行われる講堂に入る時、わずかに足が竦んだ。
その彼女の頭を、後ろから大きな手が軽く叩いた。
「よう朽木」
「浮竹隊長……おはようございます」
浮竹の手に励まされて、ルキアは講堂に足を踏み入れた。
隊の皆に、騒動のことを陳謝しなければならないのだ。
浮竹の隣に立ってずらりと並ぶ隊士達を見たルキアは、喉がからからに乾いているのを自覚した。
だが逃げるわけにはいかない。
自分の引き起こしたことで、隊にも多大な迷惑をかけた。
ルキアは一つ息を吸った。
「このたびの事------------皆様にご迷惑をおかけしましたこと」
声は震えないで済んでいる。なぜこんなに凪いだ心でいられるのだろうと、ルキアは我ながら不思議であった。
「誠に申し訳ございませんでした-----------------」
ルキアは言葉を切ると、深々と皆の前で頭を下げた。


ルキアが勤務を再開してから数日が経った。
浮竹、清音、仙太郎の三人の他は、彼女に話しかけるものはほとんど居ない。もっともこれは騒動の前から同じ事なので、ルキアは特に気に掛けていなかった。
霊力の戻りきらないルキアは、今内勤を命じられている。雑務を進んで引き受けているので、仕事は多い。忙しくしていられるのが正直ありがたかった。
この日もルキアは、書庫から古い書類を探してくるよう浮竹に頼まれていた。
この書類を参考に、あの稟議書を書いてもう一度本部に申請し直して-------と仕事の事を考えながら歩いていたルキアの背が、ぽんと叩かれた。
「よう」
「恋次?」
書類袋を小脇に抱えた恋次が、ルキアに笑いかけていた。


「お前、なんでまたここに」
「浮竹隊長宛に、書類を届けるよう命令されてな。ま、使い走りだ」
右手でルキアの髪をくしゃりとかき回すと、
「ちゃんと食ってんのか?食って寝ねえと、霊力戻んねえぞ」
と彼はルキアを気遣った。
「押すな。縮む」
恋次の手は嬉しいが、頭を上から押さえつけられているのがどうも気に食わない。
先ほどまで髪を撫でていたはずの手が、彼女の頭をぎゅうぎゅうと上から押しているのだ。
ルキアが低い声を出すと、恋次はにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「悪い。現世に行ってる間にちったあ背が伸びたかと思って確かめてみたんだがよ……相変わらずちっこいな、てめえは」
「余計なお世話だ!」
大声を出して恋次の手を振り払うと、行き交う十三番隊の隊士たちが驚いて二人の方を振り向いた。
羞恥で顔が赤くなるのを自覚しながら、ルキアは冷静な様子を取り繕った。
「……で。こんなところで油を売っていて良いのですか、阿散井副隊長?」
「すぐ行くって」
じゃあな、と恋次はもう一度ルキアの肩を叩くと去って行った。
触れられた肩に、いつまでも温もりが残っている気がする。ルキアは自分の肩を手でそっと触った。
あの手があるから、自分はこんなにも落ち着いた気持ちでいられたのだな、と彼女は改めて思った。
家族になろう、と恋次が言ってくれた日の事を思い出す。
私には帰るところがあるのだと---------思い詰め、袋小路に迷い込んでいたルキアの心を救ったのは恋次であった。
あの手に励まされ、ルキアは自分の踏みしめる大地をようやく確認する事ができた。そしてやっと彼女は海燕の墓前に参る事もできたのだった。
恋次の去った方をぼんやりと眺めていたルキアに、声がかけられた。
「あの……朽木さん、阿散井副隊長と親しくなさってるの?」
話しかけてきた女性隊士は、彼女の同輩であった。
「ええ、まあ」
曖昧に笑うルキアに、その女性は
「私、昔五番隊に居たことがあるんだけど----------すごくなっちゃったわね、あの入れ墨」
しみじみとしたその物言いに、ルキアは吹き出した。
「本当に……誰か止める人はいなかったのかと思います」
真顔で言うルキアに、彼女は笑いかけた。
「顔は恐いけど、いい人よね阿散井副隊長。五番隊に居た頃も、面倒見がよくって人気あったのよ」
「そうなのですか----------でも顔は恐いと思われていたのですね?」
「初対面だと引くわねえ。そういえば入れ墨少ない頃でも迫力あったわ」
「いい奴なのですが」
「いい人なんだけどねえ」
ルキアはまた笑った。同じ隊の同輩に、こんなに親し気に話しかけてもらったのは初めてである。ルキアの胸にほんのり温もりの火が灯った。
これも恋次のおかげだな、とルキアは彼の笑顔を思い返した。
じゃあね、と彼女も去って行った。
ルキアもまた、書類を抱え直して事務室へ向かう。
あの手の温かさを覚えていられるなら、私はきっと歩いて行ける。もっと遥か遠くにも。
そう思う彼女の足取りは、少し弾んでいた。
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テーマ:二次創作小説 - ジャンル:アニメ・コミック

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2013-02-17 Sun 14:14 | | [ 編集 ]

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