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雪と菫青石

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才能

恋次が外回りから帰ってくると、隊長執務室に置かれた自分の机の上に、桜色の紙で包まれた小さな箱が置いてあった。
包みを解くと、中に入っていたのは桜餅の入った箱と、封筒に入った手紙であった。


『残た業たごた苦た労た、夜たのたおたやたつたにどたうたぞ』

ルキアの字ではあるが、やたらと『た』が多い変な一文と、それに添えられた熊とも豚とも判別しがたい茶色の妙な動物の絵。
なんだこれは、と恋次は首をひねった。
「狸だ」
気配を消して背後からかけられた声に、恋次の肌がぞくっと粟立った。
そこには彼の上司が、いつもの無表情で立っていた。
「隊長、もうお帰りじゃなかったんですか?」
恋次の問いかけは無視された。答えたくないことには返事をしない。そんな白哉に最近慣れてきた恋次であった。
「良く描けている」
それがルキア自筆の狸の絵に向けられた賞賛の言葉であることを、恋次が理解するまで数秒かかった。
しかも同意を求められている。
白哉の無言の圧力を感じて、恋次は返事に困り果てた。
「……あいつにそう言ってやったらいいんじゃないすか」
やっとのことで、恋次は無難な回答をひねり出した。ルキアの奇妙な絵に慣れてはいるが、けして上手いと思った事はない。だがそれを正直に上司に申告するのは得策ではない、と彼は判断した。
「きっと喜びますよ」
「--------ならぬ」
不意に峻厳な表情となり、白哉が言い切った。
「少しばかりの才に溺れ、精進を怠って道を誤る若者を私は幾人も見た。ルキアに同じ轍は踏ませたくない」
恋次の手から手紙を取ると、白哉はそれに目を落とした。
「容易く誉めることは、あれの成長の芽を摘む」
しかし、と白哉は続けた。
「この歳でこの表現力。死神を志さなければ、一角(ひとかど)の芸術家にもなりえたろうに--------」
惜しい--------と言わんばかりに頭を打ち振る上司の姿に、恋次は軽い目眩を覚えた。
この狸の絵に、そこまで深い何かが?
白哉に返された手紙の狸をもう一度まじまじと見るが、溢れる才気も迸る芸術性も、恋次には感じ取れなかった。
入ってきた時と同じように、白哉は無言で立ち去って行った。
「お疲れさまーっす……」
その背中に力なく挨拶を送ると、恋次は椅子に腰掛けた。
夕刻までかかった外勤の疲れが、今頃押し寄せてきた。
箱を開けて、深緑の葉に包まれた桜色の餅を恋次は手に取った。桜の香りがふわりと立ち上る。
大きな口を開けて齧りつくと、疲れた体に甘さが染みわたっていった。
『た』抜きで読めってことか、と恋次は手紙を手で弄んだ。
とりあえず桜餅は旨い。ルキアの気遣いも嬉しい。
そしてあの兄と妹の芸術的センスはよくわからない。
「なんかもう帰っちまおうかな、今日……」
残業する気力をごっそりと削がれて、恋次は一人泣き言を零した。
だがそういう訳にもいかない。この報告書は明日一番で提出しなければならないのだ。
筆を取って、恋次は書類を書き始めた。
今度ルキアに会ったら、桜餅の礼を言おう……と恋次は思った。
その時に、隊長がお前の絵を誉めていたと伝えてやるのだ。きっと彼女は喜ぶだろう。
桜の蕾が綻ぶ時のようなルキアの笑顔を胸に思い描きながら、恋次は筆を走らせていった。
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テーマ:二次創作小説 - ジャンル:アニメ・コミック

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