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雪と菫青石

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ゲームの女神さま

「お兄ちゃん、お客さんだよー」
階下から遊子の声が響いた。
日曜の昼下がり、だらだらベッドに寝そべっていてそろそろ眠気がさしてきた頃合いであった。面倒くせえな、と一護は身を起こした。
「ルキアちゃんだよー」
「なっ……!」
一気に眠気が吹き飛んだ。慌ただしく階段を下りると、ルキアは遊子に菓子折りと思われる包みを渡しているところであった。
「連絡もせずに押し掛けてすまぬ」
一護の顔を見ると、ルキアはふっと笑みを浮かべた。久々に見る、彼女の柔らかな笑顔であった。


「すぐ帰るから、茶などよかったのに」
と申し訳なさそうにするルキアを部屋に通し、一護は座椅子を引っ張りだして彼女に勧めた。
今日のルキアは死覇装ではない。春物のピンク色のワンピースに、白いカーディガンを羽織っている。こうした服に身を包み、義骸に入っている彼女は、本当にどこかの深窓の令嬢にしか見えない。
「なんか用かよ」
ぶっきらぼうな口調になってしまうのは、なぜか気恥ずかしいからだ。斬魄刀を握っていない時のルキアは華奢で頼りな気に見える。妙に意識してしまう。
「うむ、実は頼みがあってな」
紙袋の中から、ルキアは小さな機械を取り出した。
「えーっと……DS?なわけねえよな?」
「朽木玩具が開発した、新しいゲーム機だ」
スイッチを押して機械を起動して、ルキアは彼の眼前にそれを掲げた。
「霊子変換機を通しているから、こちらでも使えるはずだ。動力源はプレイヤーの霊力だから、貴様が使用している限りは動き続ける」
「それが何か……」
「貴様には、この新作ゲームの『もにたあ』を依頼したい」
お前、モニターの意味とか分かってんのか……と若干の不安を覚える一護の前で、ルキアは胸を張った。
「私は不器用だから使いこなせぬがな!今時の若者である貴様なら、このゲームの攻略など容易いであろう」
え?今、自慢にならないことをさらっと偉そうに言いませんでしたか?
と首を捻る一護の前で、ルキアはゲームの説明書をめくり始めた。

要するに単純な、レーシングゲームである。
ドライバーとして選択できるのは、ウサギのチャッピーやアヒルのユキ等、ソウルキャンディのキャラ達。障害物を避け、他の車と競いつつ、途中出現する虚を撥ねて追加給金を稼ぎながらゴールを目指せばいい。
ざっと説明書に目を通した一護は、早速プレイを開始した。
「でさあ……」
プレイしながら、一護は疑問に思ってたことを口にした。
「モニター、俺なんかでいいのか?そっちの奴らとの感覚のズレとかあんじゃねえ?」
「お前一人ではないから、気にするな」
プレイ画面を覗き込みながら、ルキアが答えた。
「ここに来る前に浦原のところにも寄ったのでな。奴にも『もにたあ』を依頼しておいた」
「----------そっか」
浦原喜助。
その男の顔を思い出すと、一護が運転するスピードがわずかに遅くなった。
「……なあ」
お前、それでいいのか?と一護はルキアの横顔を窺った。ルキアを、霊力が分解されていく義骸に入れた男。ルキアの身体に崩玉を入れた男。そして一護に何も教えずに、死地に赴かせた男----------
「お前、浦原さんのこと……」
本当は奴に言ってやりたいことがあるんじゃないのか。そう尋ねたかった一護の思いは、ルキアの
「良いのだ」
というきっぱりとした言葉に遮られた。
「もう過ぎたことだ。忘れた」
というと、ルキアは画面を指差した。
「避けろ!兄様だ!」
「おわっ!」
車道を横切るデフォルメされた白哉らしい人影を、一護の操る車は間一髪でやりすごした。
「隊長格を撥ねると減給だからな」
「減給で済むのか?そういう問題か!?もっと重い罪なんじゃないの、普通?」
なんだこれ、心臓に悪い----------と動悸を深呼吸で鎮めつつ、一護はまたゲームに意識を集中させた。
「あ、浦原さんだ------」
「撥ねろ」
え。
今なんとおっしゃいましたか。
しかもすっごくいい笑顔で。
思わず、ゲーム機を操る一護の指が止まった。
「だって隊長格を撥ねたら減給って……」
「タイムも減給も追加給金も知ったことか。このゲームは、浦原喜助を殲滅して殲滅して殲滅するために開発されたものだ」
画面から消えて行く浦原を忌々し気に睨んで、ルキアは舌打ちをした。
「逃したか-------まあ良い、まだ機会はある。一護、次は確実に仕留めるのだぞ」
「……ルキア。お前、本当は浦原さんのこと---------」
「だから恨んでなどおらぬと言ったろう」
嘘だ。
ルキアの笑顔の裏に潜む冷え冷えとした空気を感じ取って、一護は身震いした。
あの頃の一切を、おそらくルキアは何一つ忘れていないに違いない。
思えば恥の多い生涯を送ってきましたと言ったのは、太宰治であったか。
ルキアの前でやらかしてしまったことの数々が、走馬灯のように眼前をよぎって行く。
仕方がなかったのだ。あの頃俺はまだ若かった。だが、でも----------
以前から『いつか謝らねば』と思っていたあのことを思い出して、一護の全身から汗が噴き出した。
「ル……ルキア……あの、俺……」
「なんだ?」
小刻みに震える一護を、ルキアは奇異なものを眺める目で見やった。
「双極の磔架からぶん投げちゃったこと……」
「何かと思えば、そんな昔の話か---------」
「調子に乗っちゃっててすんませんでしたあああああ!」
あの時はあれがちょっとかっこいいかなとか思ってやった自分の青さが痛いっていうか、思い返すだけでリアルに悶絶するくらい辛い。
そんな思いにかられて、一護はルキアの前で床に頭を擦りつけた。
「ういーっす。迎えにきたぞ、ルキアー」
クローゼットの前の空間に、穿界門が開いた。死覇装姿の恋次が、一護の部屋に足を踏み入れようとして固まった。
「何お前ら……」
土下座する一護と、あっけにとられているルキアを交互に見比べて、恋次の顔が赤くなった。
「そういうプレイ?」
ぶちぶちぶちと、一護の中で何かが切れていく音がする。
「うるせえよこの番犬!いっつもルキアの後付け回しやがって、他に仕事ねえのか!」
「ぬかしやがるこの餓鬼が!俺は朽木隊長から迎えを頼まれたから来たんだよ!」
「上司はシスコン、部下はストーカーかよ!暇だな死神!」
「っつーかこの小汚い小部屋にゲームを届けるなんて仕事、なんでルキアがやらなきゃなんねえんだよ。てめえがこっちまで取りに来い!来ても入れてやんねえけどな!」
「うっるせええええええ!」
腹立ちまぎれに、一護はゲーム機を床に叩き付けた。
「誰がこんなゲームやるかっ!帰れえええええ!」
それは涙まじりの咆哮であった。


後日、黒崎家の二階。一護の私室にて。
「あーなんだ、これソウルキャンディのキャラじゃなくても自分のアバター作れんじゃん。へー最終ステージまでいくと、人気死神が同乗者として選べるのか。ルキアだろ。ルキア一択だろ。恋次とかマジでいらねえだろ」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、一護はゲームに耽溺していた。
「あー面白かった」
という彼の顔は、どこか虚ろだった。
「もう一回やろ」
黒崎一護、19歳。只今現実逃避の真っ最中であった。


(おまけ)
その頃浦原商店では、テッサイがゲームに取り組んでいた。
「困りましたな、店長」
部屋の片隅で膝を抱える浦原に、テッサイは憐れみの視線を向けた。
「店長を撥ね飛ばさぬ限り、次のステージには進めぬようですぞ」
「……ひでえっすよ、朽木サン……」

同時刻、二番隊。
「なに!あの浦原喜助を殲滅できる上に、最終ステージでは私と夜一さまがドライブデートできるだと!朽木玩具、あなどれぬ!」
部下からの報告書に目を通していた砕蜂は、興奮が押さえきれぬといった表情で立ち上がって叫んだ。
「大前田!このゲームを買い占めろ!お前の個人資産でな!」
「えええええっ?俺の小遣いっすかああああ?」
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テーマ:二次創作小説 - ジャンル:アニメ・コミック

イチルキ恋小説 | コメント:1 | トラックバック:0 |
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2013-02-24 Sun 19:17 | | [ 編集 ]

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