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雪と菫青石

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帰るべき故里

崖の上からは瀞霊廷が一望できる。
日差しが柔らかい。風はもう秋の冷たさをどこかにはらんでいる。
見上げれば果てのない蒼穹。孤雲が西の方へと吹き流されて行くだけである。
ルキアはくらりと目眩を覚えた。
倒れかかる身体を、後ろから恋次が支えた。
「無理するな」
「すまぬ」
一護たちが現世に帰ってから数日が経った。
まだ隊務に復帰することもかなわぬ彼女が、『昔の仲間の墓参りに行きたい』と伺いを立てた当初、白哉の諾は得られなかった。未だ霊力の回復しない彼女の身を案じてのことである。
結局、恋次が同行するという条件付きで許可が出た。

私はからっぽだ、とルキアは思った。

昼の流魂街の空気はどこまでも遠く澄み渡っている。
野に点々と見えるオレンジ色は萱草の花であろう。
あの街に四十余年も暮らしていたのか、とルキアはあらためて瀞霊廷を見返した。
自分の居場所はあそこではないのではないかと、心のどこかでそんな声がする。
だが流魂街にもはや帰る家はない。
一護の隣でもない。あれはもう、思い返すためだけにある日々。
「帰りたくねえのか」
ルキアの心を見透かしたように、恋次が問いかけた。
「……そういうわけではない、が」
みな良くしてくれるし。そう、優しいのだよ。私がわかろうとしなかっただけで。
兄様もお屋敷の皆も、本当は親切な方たちなのだ。
ぽつりぽつりとルキアは答えた。
だが、本当の事は恋次にも言えない。
その優しさが、ルキアを傷つけているということを。

この姿形に価値があるのだと思っていた。
せめてこの似姿が白哉の心を慰めているのならばと、それだけを救いに縋り付いてきた四十余年であった。
だが、違った。
ルキアが、この顔をしたルキアという女であることにすら意味がなかった。
その人の血筋であるというのならば、誰でも良かったのだ。
私でなくともよかったのだと---------だが、それを憤ることもできない。
とりわけ、白哉に命を救われた今となっては。
兄様はなぜ私などの為にあそこまでしてくださったのであろうと、考えても考えても、ルキアの中にそれらしき答えは浮かんでこなかった。
代わりに浮かぶのは、この空虚な思い。

わたしは、からっぽなのだ。

「俺の家に来るか」
思いがけない恋次の言葉に、ルキアは胸を衝かれた。
「なに……を……いきなり」
「いきなりじゃねえ。ずっと考えてた。お前、朽木家に居づらいんじゃねえのか」
後ろから抱きしめられているので恋次の顔は見えないが、その声には真剣な思いが込められていた。
ああそこに逃げてしまおうか、という誘惑が強くルキアの心を惹いた。
「……そう、だな」
ルキアは己に廻された彼の手を取って引きはがし、自分の頬に当てた。
血まみれになってもあの時自分を離さないでいてくれた、この大きな手。
温もりが頬に心地よい。ひび割れた心に染み渡るかのようであった。
「お前はいつもここにいてくれたのだな」
朽木家の、ではなく。その人の身代わりや、忘れ形見としてでもなく。
ルキアをただのルキアとして見てくれる男がここにいる。
いや、ずっといてくれたのだ。ルキアが知らなかっただけで。
そのことに思い至ったとき、彼女の中で何かが動いた。木々の葉を揺らして青く吹き荒れる風のような感情であった。
誰にも頼らず、走って行ける力が欲しいと彼女は思った。
強くなりたい。誰かに縋って、捨てられるのを恐れてただ何もせず待ち続ける日々を終わりにしようと。
「私はまだどうしたらいいかわからないのだ」
恋次の方を向き直り、彼女は素直な心情を吐露した。
「だからゆっくり考えようと思う。それに……私が出たいと思えば、もう兄様は止めはせぬだろう」
あそこは檻などではなかった。私には最初から枷などついていなかった。
私を縛っていたのは、私自身だった--------そうルキアははっきりと知った。
「不思議だな」
まっすぐに見返してくる恋次の赤茶の瞳を見つめているうちに、ルキアの言葉が溢れでた。
「なぜだかわからぬが、私の帰る場所はいつもお前の隣だと思うのだよ」
恋次の顔が泣きそうに歪んだ。彼を安心させてやりたくてルキアは笑おうとしたが、上手く笑えなかった。
ただ抱きしめてくる恋次を、彼女はそっと抱き返してあげることしかできなかった。
ここが私の帰るべき故里。
この男は私の魂の半分。
そう思いながらルキアは、風が野を渡る音を聴いていた。
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テーマ:二次創作小説 - ジャンル:アニメ・コミック

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