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雪と菫青石

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残花

志波海燕の遺骸 虚化の廉により瀞霊廷に入れること能わず

まだかすかに息のあった海燕の身体は、四番隊に搬送されるどころか、瀞霊廷への収容さえ拒絶された。
懸命の抗議が一顧だにされず却下されたルキアは、知らせを告げにきた裏廷隊の隊員に、せめて搬送の用具をと懇願した…と、白哉は後に聞いた。
そして海燕の遺骸を流魂街の家族の下へ送り届けたルキアは、瀞霊廷に戻ることなく、己の刀でその胸を突いた。
そこは、白い花の咲き乱れる丘の上であった。

「血圧低下!霊圧微弱!」
「強心剤追加します!急いで!」
四番隊の救急処置室では、卯の花や虎徹ら上級隊員が懸命の蘇生措置をルキアに施していた。
瀕死のルキアを、白哉がここに運び込んだのは小半時ほど前のことである。
「朽木隊長…こちらへ」
処置室の隅に立ち尽くしていた白哉は、四番隊の隊士の一人に促されて部屋を出た。

あの時、ルキアの悲鳴が聞こえた。
志波海燕をルキアが自らの手で殺めたと-------その信じられない報を受け取ってから、白哉はずっとルキアの霊圧を探っていた。
彼女が海燕の遺骸と共に流魂街に赴いたと聞いたのちは、朽木家の隠密を走らせ、ルキアの動向を監視するよう命じた。
そのため、己を傷つけた直後にルキアをいち早く発見できたのではあるが…
だが、遅すぎた。そう悔いて、白哉は拳を握りしめた。
白い手甲はルキアの鮮血で染まり、今は赤錆色に変じはじめていた。


それから数日、ルキアは四番隊で過ごした。
目覚めた後の彼女は、傍目には妙に落ち着いたかのように見た。
見舞いに来た浮竹には普通に受け答えをし、この数日職務を投げ出した事を丁寧に詫びたりもした。
『ごしんぱいをおかけしましたにいさま』
そう義兄に頭を下げるルキアの声は奇妙に童女じみていて。
ルキアの心のどこかが決定的に壊れてしまったことを、白哉に痛感させた。
4番隊の療養所から退院したのちも、白哉はルキアの隊務復帰を見合わせることとした。
ルキアにそう告げても、彼女は「承知いたしました」と神妙に頭を下げ、それ以上の事はなにも言わなかった。
「あれから目を離すな」
侍女に伴われて覚束ない足取りで自室に引き上げるルキアの背を見送り、白哉はそう使用人に厳命した。

斬魄刀(かたな)がない、とルキアは思った。
それのみならず、懐剣や鋏など刃物の類いは一切ルキアの部屋から運びだされていた。
部屋から出るように命じても「ご当主さまの命令ですので」と、頑として侍女は部屋の片隅に陣取っている。
ルキアは諦めて布団に横になった。
だが、眠れない。雨音が耳につくのだ。
「ひどい雨だな」
と呟くと、今宵は晴れておりますよと侍女が答えた。
そうか、ではこの雨は---------とルキアは思った。
----------私の中に降っているのだな。

こんな雨なのに。
こんなにひどい土砂降りの雨が、全身を叩き付けているのに。
手に染み付いた血は、流れて消えることはない。
真っ赤で、生暖かな、ぬるりとしたこの感触。
-----------海燕どのの、血が

「いやあああああああああ!」
真夜中、ルキアは己の絶叫で跳ね起きた。
部屋の隅で控えていた侍女が駆け寄ろうとするが、ルキアの作り出した霊圧の壁に阻まれてしまう。
「あ…ああ…」
暴走する霊気が雪となり、ルキアの身体から吹き出していた。
白く凍り付いた己の手をルキアは見下ろした。

手はまだ、海燕の血で真っ赤に染まっていた。

「…っ!」

己の罪を直視できなくて一瞬目をそらし、また視線を戻すと、掌は白いままであった。
ルキアは信じられない思いで自分の両手を見つめた。
その両の掌に、氷の柱が成長し始めていた。

  かたななんかなくても、ほら。

なぜかそれが嬉しいことであるかのように、ルキアは笑みを浮かべた。
氷柱はどんどん大きく鋭くなり、やがて刃へとその形を変えた。

  もうこれでおわりにできる。

ルキアは微笑みながら、氷刀を自分の喉へと向けた。
ざくりと肉を貫く感触がした。

「に…い、さま…どうして」
突然眼前に現れた白哉に、ルキアは驚愕した。
どうして。
震える唇でルキアはなんどもそう呟いた。
ルキアの作り出した氷の刃は、彼女自身の喉を貫く前に、白哉の掌で止められていた。
ささくれだった氷の柱が、深々と白哉の掌を貫いている。
吹き出す血も、溢れる血潮も、すぐに凍り付いていく。
「いや、いや、いやあああああああああ」
悲鳴とともに氷の刃が砕けた。
「勝手な真似をするな」
刃に貫かれていない方の左手で、ルキアを引き寄せ、白哉は冷たく命じた。
「そなたが死ぬのは…私がそう命じた時だ。その日まで、死ぬ事は赦さぬ」
ルキアが膝から崩れ落ちた。同時に、周囲に張り巡らされていた氷の壁が砕け散って行った。
侍女が呼んだらしき家人たちが、白哉の手当をしに駆け寄って来た。

死ぬ事は赦さぬ。
白哉にそう告げられてから、ルキアは平常心を取り戻したかのようだった。
隊務に復帰し、いつも通りの仕事を淡々とこなしていると…浮竹はそう彼に報告を寄越していた。
「朽木は良くやっているよ。危険な任務も率先してこなすし…今ではうちの隊の貴重な戦力だ」
そういう浮竹の顔は、なぜか物思わしげに曇っていた。
「だが…少し熱心すぎると…俺はそれが心配なんだよ」
六番隊の執務室で一人、白哉は物思いに耽っていた。
いったい誰が、何を赦すと言うのか。
眼前で冷えていく茶の入った湯のみを見ながら、白哉は自問自答した。
ルキアの心は、あの夜から一歩も進んでいないように彼には思えた。
義兄に死を赦してもらえぬなら、任務で命を落とそうと望んでいるのではないかと…そんな疑念すら白哉の脳裏に浮かんでいた。
お前が壊した。
なにもかも全てお前が壊して、踏みにじっていったのだ。
白哉は胸の内であの明るい笑顔の持ち主だった男を詰った。
窓の外で鵯が鋭く鳴いていた。


あの雨の夜から数十年が経った。
志波海燕の死によって無惨に散らされながらも、ルキアの中になお咲く花が残っているのではないかと…そして白哉の前でいつか花開く日が来るのではないかと。
そう思って待ち続けた年月であった。
「…成程この子供は 奴によく似ている」
海燕に良く似た子供に寄り添うルキアを見たとき、白哉の全身の血は凍り付いた。
そこまでして忘れられなかったのかと。
そしてお前は、まだそれを希っていたのかと--------
「よかろう、その者には止めは刺すまい」
命を賭してその子供を庇うルキアに、白哉は心の中で告げた。
もうその苦しみを終わりにするがよい、ルキア。

お前に死を、赦す。






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(後書き)
白哉がルキアの死刑に反対しなかった理由についてちょっと捏造してみました。
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