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雪と菫青石

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雲の彼方は

「降ってきたな」
「ああ」
甘味処で二人、見るともなく外を眺めていると、ちらちらと白いものが舞い降りて来た。
今日はことのほか空気が冷たい。
甘酒を啜り終えた恋次が言った。
「積もる前に帰るか。送っていくぜ」
珍しく今日はたまたま二人とも早番で、誘い合ってここでとりとめのない会話に興じていたのだ。
名残惜しいが仕方あるまい、とルキアもまた甘酒を飲み干した。
店を出ると、冷たい風がルキアの身体を煽った。身を竦める彼女を見て、恋次は笑った。
「寒がりだな。鍛え方足りねえんじゃねえの?」
「馬鹿を言うな。貴様が鈍感なのだろう。この寒さに気づいておらぬだけなのではないか?」
憎まれ口を叩いて、ルキアは早足で歩き出した。恋次は苦笑しながらついてくる。歩幅が違うので、ルキアが多少急いでも恋次の歩みにはまだまだ余裕がある。
「寒いな」
「明日も寒いのだそうだ。雪も続くらしい」
ルキアが予報局の情報を教えてやると、恋次は
「俺、明日流魂街廻りなんだ。あんまり降らねえといいんだがな」
と嘆息した。昨日など、風の吹いていない時の日差しは春そのもので、日なたを歩いているとうっすらと汗ばむほどであった。
今日は一転、この雪空である。
「早く春になんねえかな。花見でもしてえよ」
「貴様の目当ては花見酒であろう?」
「てめえだって花見団子の方が良い口だろうが」
ルキアは少し考えて「そうかもな」と正直に認めた。
毎年桜を見ているはずなのだが、純粋に花を愛でてのんびりと過ごせたことなど数えるほどしかない。朽木家の観桜の宴は、気ばかりが疲れてあまり桜を楽しめないのだ。
「桜が咲いたら、花見に行こうぜ。南十二区にいい場所があるんだ」
「そうだな」
こんな風に簡単に、恋次と未来の約束を交わせる日が来るなど、少し前までの彼女には想像すらできないことであった。
雪まじりの風は頬や鼻に冷たいのに、ルキアの胸にはじんわりと暖かいものが溢れてきた。
今日も明日も雪だけれど、それでもやっと最近梅の花が咲いたのだ。
きっと桜が咲く日が来るのも近いに違いない。
雲の彼方は春であると…そんな古歌をルキアはふと思い出した。
雪雲の中にも春の予感が隠されている気がして、ルキアはそっと恋次の手を掴んだ。
少し驚いた顔をした彼であったが、無言でぎゅっと握り返してきた。
そしてルキアを寒風から庇うように、恋次はその細い肩を抱き寄せた。
細かい粉雪はちらちらと風に踊り、地に着くと瞬時に消えていった。

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タイトルは古今集 清原深養父(きよはらのふかやぶ)のこちらより↓
 
  冬ながら空より花の散りくるは雲のあなたは春にやあるらん
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テーマ:二次創作小説 - ジャンル:アニメ・コミック

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